豊原備忘録

意味わからん学生が書き物します

ブルアカ二次創作感想『透過性モノクローム症候群』

はじめに

C105 冬コミで頒布されたsixrockさんの作品『透過性モノクローム症候群』の感想を書く.

ホシノと先生が題材の作品.B6判なのでほかの小説より一回り大きい.そして文章も空白が多いから全体の分量は圧縮すればかなり減る.B6判に対してそのうえ文字が小さい.昔の文庫本かよ,と思った.

ホシノには全く興味がないのだが,sixrockさんとは,夏コミで知り合って,それから時たま会うとかの関係が4カ月ほどあったから,知り合いであるという理由で買った.そして,Pixivで出している作品を少し目を通していたから,自分の中では,(嫌な予感はするものの)文章自体の表現を楽しんでみたいから,というのもある.

しばらく同人誌の感想を書いてきたが,それにプラスして,レポートの書き方を意識するような記事を今年はメインで書いてきた.だから,できるだけ全部の感想を書くとかはせず,重点を置いて,感じた気持ちとその理由を,明確に描くようにしたい.

文字が多い文章はだれしも読みたくないから,軽食を食べる感覚で読めるようにしたい.来年の抱負

本題

センチメンタル気味な先生が,精神的な何かの病気で先生の職を辞し,隠居するのだが,(自分がそういう文章を見ないからやが)あらゆる先生のセリフにsixrock節を感じた.

一挙手一投足を説明するというよりは,含みを持たせたエモい表現が多い.

エモいという言葉で片付けるのは良くないからもう少し詳しく言うと,隠喩をめちゃくちゃに使っているうえに,ある程度景色を思い浮かべられるほどにはしっかりしているということだ.くどくイキった表現ではない.

ただ,この表現群が,著者によるものではない──先生本人の一種の日記的なモノから生まれたと考えたら,大人としての先生ではなく,純情ではあるが自傷自虐にまみれた,ファッション鬱とか,明治大正・昭和初期に見られる文学青年らしい「高校生」と感じた.

大人ではないというのは,以下の文章からわかる.

煙草に憧れを持つような人間が成人してから喫煙を始めるわけがなくて。少しでもはなく大人になりたかったからずっと吸っていた。

若干,””一般的に""校正が必要だと思われそうな,接続とかリズムの悪い文章が文章全体で散見できるがそれは無視する.なぜなら著者が病気に伏しているときに書いたし,チェックしてるから,著者が正しいのだ.

先の引用では,まだ精神的に大人になりきれていないから,何とかして近づこうとタバコを吸っている.他にもそれに近しい文章があるが,「大人になりきれていないファッション陰鬱な先生」がやに鼻につくし,イライラした.

このイライラは以前にも感じていた.

1年の時に勉強した夏目漱石の『こころ』で,「先生」の遺書で,学生時代の「先生」とその友人であるK*1との絡みを書いた部分があるのだが,先生もKもこう,初心で思うことをはっきり伝えられないからグダグダする様子があった.これが面白くなく,すごいイライラした.

いわゆるBSS(僕が先に好きだったのに)の先駆例ではあるが,純愛主義的思想を持つ自分からすれば,これがきっかけで「この時代の小説に多い,陰鬱と恋愛を掛け合わせたクソみたいな内容が名作として謳われているのが気に食わん」とantiになった.但し,夏目漱石の文学表現は本物だし現代文の作品として最前線をまだ張っている.明治で今とさほど変わらない文章を書くのだから,すごいわ*2

で,ブルアカの方の先生は,未だ大人に振り切るほどの力がないし,ある意味生徒に自分の存在を求めているような空気を醸し出しているのに,「自分はいなくていいから」とかきしょいセリフばかり言う.ホシノもホシノで,「普通な」対応だから,それは先生には改善の方へと向かない言葉だろう,と思ったりした.

途中までバッドエンド空気が漂うし,序盤ですでにダメな空気だったので,「ブルアカ小説って,明治時代に暗い作品が流行していたように,今の時代はみんな精神病んで誰かに救済求めたいから,生徒に助けてもらうみたいな,序盤中盤は暗い空気な作品が多いのかな」と暗澹たる気持ちになった.

当作では,「狂った歯車が異質な噛み合いを見せ、静かに廻り始めた。」みたいな表現がイワシの大群のようにやってくる,本当に.脳がエモさとか表現技術力を処理しきれていなかった.俺にはこの文章は書けないし,西村京太郎みたいな文章しか食わないので,慣れない味を試しているようだった.



エンドパートの話.
最終的にバッドエンドなのだが,もう貫徹してバッドエンドに走るつもりなら,これで構わないと思っている.むしろメリバ的だろうか.
しかし,軽率に人が死ぬような推理小説ではなく,同情を誘ってある程度苦しませる純文学らしさがあった.(自分はこれが鼻につくのだけど)


結構文句を言ってしまったかもしれない.趣味趣向が違うから合う合わないが当然あるのは少し受け入れていただきたい.が,文章表現を楽しむという観点ではかなり面白かったし,文句を書くにしろ,その理由を自分の中で記述できたから満足だ.

pixivの方の作品も目を通してみるとよいかもしれない.

*1:高専の隠語のKではない

*2:ちなみに,漱石作品でまともに全部読んだのは坊ちゃんしかない.エキセントリックでパンチの利いたdisが面白かったから.