豊原備忘録

意味わからん学生が書き物します

ブルアカ二次創作感想『空の先へ届け、雛鳥の羽ばたきよ』

はじめに

海老天丼先生(https://twitter.com/Ebi_no_Ten_Don)の作品『空の先へ届け、雛鳥の羽ばたきよ』の感想を書いていく.
C103にて頒布された作品だが,当然のように当時の自分は小説作品をマークしていなかった(参照*1 )ので,普通に買うのが遅れてしまった.いや,数冊小説作品は買った...が多くをマークせず名作を逃してしまっていた,と言う方が正しい.やらかしてしまった,とコミケ終わって1週間たったころに後悔した.苦い思い出.
著者のほうはというと,新作の待望の圧が非常にかかっているとのこと.面白いね.*2 この感想読んだ人は応援しよう.(年が近いので自分も尊敬の意を持っている)

あと自分がガタガタ感想を書いていたら,本読んでもらって感想書いてほしそうだったので,届いてすぐ書くことにした.

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2274097
(メロブの埋め込みがなぜか出せない)

装丁

表紙は以下のようなものだ.花種はわからないけどヒナに合う花束を持たせ,きれいなタッチで,これだけで一杯コメを食べれそうなくらいに美しい.担当はもるたる先生(https://twitter.com/nis_ta7771)

担当者名は背景と同化していて少し残念.
章題ページはセンタリング,自然と目が来る中央微下あたりに来ている,良いデザイン(?).タイトルと章題が各ページヘッダー記載だがなんか低いように思う.本文とページ端の間がちょうどいいくらい?あとはアンダーラインかなと.
本文余白は十分.フォントサイズ小さくない?と思ったが任意の文庫本とそこまで変わらなかった.いつものこの錯覚に悩まされる.デザインにごちゃごちゃ言ってしまった...

ある男の独白

プロローグ.そういえば,タイトルに空崎ヒナ(雛)の名前をうまく組み込めてるし意味通ってるからすでに才能あるなぁと思った.
多分先生のことだろうけど,絶望ルートしか見えない.大人としての葛藤を表現するなら,暗闇の中ひたすら動き回って生き方を見出そうとするような,こう現代病の闇を感じる.
全力,必死,先生は直接口には出さないけど行動の原動力がすべてこれなわけで,裏で何かに駆られているからか,表に出せずに内心苦しみ時間を経るごとに内側からの崩壊を招く.
ヒナと先生は対比が効いている.共通項にどっちも献身的に頑張るということもある.命を懸けてまで全力になることが呪いなのだろうか.BADルートしか見えない.

何気ない日々は煌めいて

シャーレで先生の仕事を手伝うヒナ.風紀委員で仕事するよりかはマシだと思う,先生が所要でどこかに離れていかない限りだが.
ヒナはエデン条約テロの時から何を得て,どう成長したのだろう.原作的には人に頼るということ,休むということを学んだかもしれない*3.感情に従いあらゆるものを曝け出すだけでは何も進まない.テロ後どう活動していくかをすぐに決断・実行することが求められる.

お互いに仕事がない日はデートやお泊りをしている。

先生が普通にやばい変態かもしれないが,それは置いておいて,良い休息,尊い展開.先ヒナのこういう関係を俺は一生みたいよ.
モモフレに気になり始めるヒナとか,スカルマンが似合いそうなヒナとか,解釈がわかる.アズサもスカルマンが好きだが,銀髪少女にはカラーコントラストとして黒基調のキャラが良い.

コーヒーの味を素直に,反射的に言えるようになったあたり精神的に成長したのかなと思う.そして褒めに褒めまくる先生とそれに照れるヒナ.最高の福利厚生.
ヒナ吸いはいずれガンに効くとされている.ただ相手が高校生なので犯罪臭が...作者の性癖がにじみ出てる気がする.添い寝とかもうダメだろ.ヴァルキューレ案件.独占...どこかのヴェリタス副部長がキレそうだ.
ここまで先ヒナCPにおけるあらゆる物理的接触・絡みの描写を試しているような.良い試みだし先ヒナと読者(自分)にとって良いエネルギー剤になる.

先生語り手への遷移.次のページを開いてからやっと気づくようになった.(叙述トリックでも何でもない*4 )
その当該ページがあまりに不穏だしフラグしか感じない.「ちょっとした」と強調するし,急ごうとするし,精一杯生きるという意味のことわざ思い出すし.それに子供助けて惚気る.
特に焦燥感,焦りが募って様々な表現でそれが示されている.俺も逆に(?)焦ってくる.ミラクル5000ってどう考えてもヤクルト1000やし,なんかケーキになってる.あと美食研テロ組織は爆破しなかったらしい.ミラクル5000すごいね.
さっきまでフラグを分譲住宅のごとく建てまくって,加えて帰りにヒナのためにケーキを買っておこう,なんて特大フラグまで建ってしまった.海老天丼先生はこの先生を早く死なせたいのかわからない.怖すぎ.

突如,唐突に身体に違和感を覚えた。

──その手は,赤く,緋い,血色に染まっていた。

なあ,おいって.素直に感情が出てしまった.俺は先ヒナの日常だと思ったけど,普通に曇らせやったらしい.(別に曇らせも文学だから良い)

ヒナと分け合えなくなった事が悲しくなってしまった。

いや,そんなこと言ってる場合ちゃうねん.命の危機やって吐血(喀血)は.にしても,この心情はいかにも生徒への献身的なサポートに囚われ責務・義務と感じる真面目すぎる大人を描写している.一方自分はイライラして焦っている.

一方そのころ仕事を続けるヒナは...みたいなアレ.何も知らないので帰ってくるのが遅い理由をいつものことだと思う油断さ,これがあるから曇らせを差し込める余裕がある.──それが杞憂で済めばよかったのに
ヒナセナが突如出現.セナの解釈も自分は浅いから適当なことが言えないのだけど.

いいですか,落ち着いて聞いてください。

普通に笑ってしまった.シリアスな展開やのに,あの禿白衣の男性が大塚芳忠ボイスで説明するシーンが思い出される.それよりも,ヒナ曇らせでBADルートが確定したことに涙している.救いの要素がない.辛い.
セナ,クールで無表情な顔だがこういう切迫した,先生が絡む状況の顔はどうなっているのだろう.笑顔かもしれないし,目のハイライトだけがないかもしれない.本気で医療従事する人間はどう思うのだろう.死体を見たことがあるわけでもないのに.
自責思考に行きつくヒナ,全く先生と一緒だし,プレ先ルートを思い出す.生存報告と抱擁で双方一旦安堵させているが,ここまでくるとすべての事象がフラグに見える.普通に尊い行動を,適切に尊いものとして楽しめないのかもしれない.誰のせい.

余命宣告.先生は受け入れることができてると思うが,ヒナのほうはまだ残るごちゃごちゃした思考にもっと意味不明な情報が入ってきて正気を保つことも難しいはず.静かな通路にブーンとなる蛍光灯,それが事の重さとヒナの虚無感を強調させる.
真顔のセナが重い事を言っているのを見ると悲しくなる.それがプロフェッショナルなんか?しかしヒナに対してできる気遣いをやれるだけやっているのだ,そうに決まってる.
真剣で剣幕した顔,見開いた黄眼,感情に揺さぶられた声色.そういうセナを見たかったのはある.先生が死ぬことが確定しているから本気(マジ)になってるセナ,俺は好きだ.同期で,風紀委員長のヒナだとはいえそれでもやらなければならないことはここまでして伝えないといけなかった理由がある.ヒナはそれにすぐ気付くから互いに不干渉でありつつも,理解しあっているちょっとした友情?とでも言うべきなのだろうか.

あのクールなセナが,一人で寂しく告白するのはエモい.もうこれからは話す機会がないから諦めざるを得ないということもある,心が苦しい.

記憶、或いは逃避

先生はなんか緩いままだし,ヒナは感情を失ってるし.最悪な空気が流れているが景色は強い日差しと熱い砂浜,そして海風という青春あるあるのもの.良い対比.
(ちゃんとイベントストーリ見てないけど)ゲヘナ海イベ第二回だ.残った時間でとにかく先生との青春・恋愛を築こうと努力し焦っているのが何とも哀れさを感じられる.共感レベルが高すぎるのでここも読んでて苦しくなる.

牛柄ビキニ,赤スリングショットを選定したり,そもそも生徒の水着選びに来てる先生,ガチキショイ.そういう性癖?自分の性癖に合うようにヒナを着飾らせるなよ!!!!!
強い反駁をしてしまった.同人誌とはそういうものだ,気を取り直して先の描写は受け入れておこう(白目)
ヒナはそういう系のほうがあってる.素朴感ありつつ可愛らしいやつが.
手つなぎ,サンビーチ,トロピカルドリンク,夏夜の花火,そして潮騒.夏の風物詩の詰め合わせ.景色の描写とヒナの心情説明がしっかりしてたので脳内映像を補完しやすい.夏のエモをかなり食らった.
来年も来れたらはネガティブだから,来よう,と確定させるような先生の発言.いかにも先生らしい.しかし,「きっと大丈夫だから」という言葉が俺を不安にさせ,先が暗く,暗雲に立ち込める雰囲気を感じさせる.限られた時間で繕うとする青春とそれによって発生する感情をなんとか記憶しようとするヒナ,涙が出る.

秋のキャンプ.ゆるキャン△を一瞬思いだした.しかし今先ヒナがしているキャンプはあくまで──先生との思い出を稼ごうとする,なんだか価値があるかないか思えるのか怪しいものだ.
ヒナはキャンプをしたことがないからか新鮮さを感じている.見せたいもの,それを理由にヒナを連れまわす.先生らしい.けど体が限界を迎えているだろう.休息取れよ.
チタンのマグカップ,コーヒー,見上げる圧巻の星空.秋のエモの詰め合わせ.そして流れ星.欲張って願いをいくつもかける無邪気な子供のような先生とそれを眺めるヒナ,良い関係.

真冬の列車,暖房が効いた車内.オタクの自分はなぜかここで興奮する.普通にエモだし.相合傘書いて,先生と隣り合わせにしてしまって照れるの,良いな.
先生の上着を被って寝る.尊いのか,哀れなのか今どっちの感情を持っているのか自分でもわからなかった.
鬼怒川温泉で温泉旅をする先ヒナ概念があればいいな.誰かそういうの書いて.
よかった,さすがに混浴じゃなくて.混浴だったらいよいよこの先生を拒絶...まではいかないけどヴァルキューレに通報してた.

やっぱり、先生はずるい。大人としての義務や...(中略)。自分は、辛いはずなのに。

やけに言葉の重さを感じる.プロローグの呪いを想起させるし,これも全部鬱フラグに見える.ヒナ自身は,自分とは逆の存在だから輝いて見えるだろうけど,実際には見透かしているのがわかる.しかし言い出しても先生はそれを受け付けないしなんとか頑張っている姿を繕うから余計心配している.

旅館の窓際の例のスペース,広縁と真っ暗な空と降り続く白雪,またエモ.広縁で交わされる雑談だけで一杯飯が食える.

もしも、さ。仮に私の余命が宣告されていなかったら,二人でこうして旅行に来ることもなかったのかな。

もうやめてくれって泣 これもまた先生の命を懸けてまで生徒に素晴らしい経験をさせてあげようとする信条を示している.ここまでくると本当に頭おかしいと思い始める...がセリフのカッコよさというか,儚さが悲しみを助長させてくる.辛い.いつもより敏感になってるヒナには,そのセリフの裏にある恐怖を感じ取れてしまっているのが余計アレだ.
先生との添い寝二回目.ヒナの内心恐怖が伝わって読んでる方が怖い.
教員としての建前上,っぽいが仕方ないのだろう.ヒナもそれをわかっていながら渋々受け入れる.本当はどちらも一緒にいたいのだろうけど.

先生とか生徒とか

期間が過ぎて,先生はほとんど動かなくなってしまった.さっきまでのちょっと元気だった先生を返してほしい.
看取られ展開が固まり始めて涙が出る.ヒナは返ってくるわけもない返事を少し期待しながら一人で先生に語り掛けている姿を,計測器と換気扇の音だけがなる静かな病室の中で見せている.自分的にはこういう寂しさ・回避できなかったボッチのシーンがだいぶ心に来る.自分の経験も併せて,思考がとてももやもやする.小説の話なんか今変えれるようなものでもない,わかりきっていることなのに.
風紀委員の仲睦まじいデザート食事,正月,バレンタイン,ヒナ抜きでの風紀委員の能力成長,どれも素晴らしいイベント,事象であるのにすべてが儚い.優に3か月も過ぎてしまっているのが,自分の時間感覚の変化を突き刺しに来る.

先ヒナの抱擁と甘え二回目...だがさっきの心持ちと同じようには見れない.先生は衰弱しきって,先の展開の暗雲がすぐそこまで来ている.
先生は大人──生徒の模範であり,導く存在.ゆえに生徒に弱い顔を見せたり生徒に甘えるようなことがあって良いとはならない.そういう呪縛,呪いの基打ち明けるのは先生的にも重負荷になる.病室内の空気が重たい.
先生の打ち明け,今の自分が抱える問題・悩みに近しいものだからめちゃくちゃに突き刺さる.読んでて苦しいし涙が出る.結構マジな奴で.ヒナも全く同じで,こういうところは双方本質的に補完しきれなかったからかえって先生側がこうも潰れかけてしまったのではないか.自己犠牲によって一人の生徒が羽ばたけるようにはなったが,収支で考えたらプラマイゼロどころかマイナス.プロローグの展開に沿いすぎ.

「変な人」さすがに重たかったから先生の今までの奇行をまとめた言葉で笑かしに来ている.安心した,少しだけ.
必死の言葉で思いを伝えるヒナ,それに対して誰かに認められたと実感した,すすり泣く先生.ああよかった.ああ....
卒業式まで生きて,共に桜を見,祝う.それが叶うかもわからないのに.それに期待して手を振り最後の別れ.


もうやめてくれ,いや本当に.セナが逼迫した声「だけ」が文に現れ,かつ短い.俺は想像を捨てたい.ヒナの感情ももう考えたくないとか,そんなことがよぎった.
あー俺の求めていた日常はどこへ行ってしまったんだろう.

それでも、私は。

さっきのガチ鬱展開が俺にナイフを刺してきた.今完全にこれ.

BLACK LAGOONより

プロローグの呪いってのがこれなら,俺はなんて浅はかなんだろうと思う.普通に曇らせ.
鬱展開になぞらえ,無気力と鬱感情で全てのものが鬱陶しく煩わしく感じるようになったヒナ.今の自分すぎる.最後のほうでズタズタに刺しに来ている.労りの言葉も単調でより儚さを増長させる.

そう、思わなきゃ潰されてしまいそうだから。

希望も叶えられずに一種人生終わったみたいな感じ.キツイ.主人が帰ってこない○○はあるあるだけど,王道なので普通に泣ける.

花の引換券だけ置いていくのが,先生なりの思い出を風化させない方法なのだろう.追伸も全く叶えられなかったのに.あー

先生の生きた証を取りこぼしている暇は無いんだって。

ここでユメホシを思い出して鬱展開のダブルパンチを勝手に食らう.泣いている暇は無い,とにかく進み続けることしかない.それが今,何かを失った人ができる最後の手段.

この空の下に誓う

綺麗で美しさもあれど,儚さ45%は含む春の描写.「見たかった」なんて過去形はなおさら辛い.詩的な文章が連なる.
精神的に少し成長し,先生を継ぐという形になった.でもそれがハッピーで済むわけが.自分はまだモヤモヤっとしている.
約束と誓い,生きているころには達成できなかったけど,きっと先生は空から見てくれている,そうだろう.ありもしない幻像が写っているのだ.春の桜だけ,出会いと別れが唯一重なる季節,先生が一緒にいない.ヒナの心残り.
不完全でもなんとか頑張っている姿を見てもらう,3年生の時とは少し成長・変わるようになった.

まとめ

徐々に曇らせ展開の濃度は濃くなり,特大フラグの連鎖.景色の描写は映像補完が容易なほどに丁寧で,文学的センスに溢れている.そして先生,ヒナ,セナの感情に振るわされるセリフや,声色のような幻聴までが聞こえてきた.(多分)
語り手のヒナの言葉が章を追うごとに若干変わってきている気がした.かわいらしい少女の緩く優しい気持ちであふれていたのが,大人としての責任と義務,先生の死という分かりきっていたとえども大きな衝撃を経たからこその淡々とした,剛健な精神を感じさせるような物になっていた.
ヒナ曇らせとして辛く苦しいものだったが,感動でき,キャラクタの感情が直で伝わって自分の心も揺さぶられる作品だった.非常に良い.

*1:ブルアカ二次創作感想『一月六日。』 - 豊原備忘録

*2:どこがやねん

*3:ヒナへの解釈浅いのであんまり書けない

*4:まずお前は叙述トリックを理解しているのかはさておき